紅楼夢

    『紅楼夢』

     『紅楼夢』を実際に読んだことはないものの、この古典の存在を知っている読者は多いのではないでしょうか。『紅楼夢』は絢爛豪華な貴族家庭を背景にくりひろげられる美貌の公子の悲恋物語でして、どこか、日本の『源氏物語』を連想させます。
     『紅楼夢』の作者は曹雪芹(1715〜1763)といい、清朝の人です。一説には、曹雪芹の半生の間に実際に会い、または耳にした才女について語るためにこの小説を書いたと言われています。
     しかし、三国志ファンは多くても、紅楼夢ファンというのは日本では少ないのではないでしょうか。インターネットの中国古典の世界でも、やはり『紅楼夢』はマイナーな存在です。
     その数少ないインターネット上の『紅楼夢』の中で、メールマガジン【日本脱藩のすすめ】とは相互リンクはしていないものの、お互いに私信をやり取りした紅楼夢ホームページの作者がいます。『紅楼夢』に関心のある読者にとって、一見の価値はありますので、下記のページを訪れることをお勧めします。

    【紅楼夢小辞典】
     絢爛豪華な紅楼夢の世界の一端がこのホームページで展開されています。

     さて、『紅楼夢』は数多くの中国古典のひとつという認識が一般ですが、中国人である張明澄さんは自著『間違いだらけの漢文 中国を正しく理解するために』(久保書店)の中で、『紅楼夢』について次のように述べています。

         『紅楼夢』という小説は、読む回数と正比例に、その面白
        さを増していくのである。胡適氏や蔡元培氏などの大学者た
        ちも、必らず、いつも『紅楼夢』を一冊、旅行カバンのなか
        に入れていた。
         あの人たちなら、老年になれば、それこそもう何百回も読
        んだことだろう。百ページあたりを読んでいたら、もう百十
        ページになにが書いてあるか、すでに分かっているはずであ
        る。
         それでも、読んでいてけっこう面白いのである。こういう
        変な魅力は、『紅楼夢』特有の魅力であり、とうていほかの
        作品には、こんな魅力がない。
         内容は起伏や波瀾が多く、血、汗、涙、笑いなどが入りま
        じり、この作品を読んだ人は、他の古典などとうてい読んで
        いられない。ことに『源氏物語』あたりは、たいくつ極まる
        感じになる。
         もちろん、『源氏物語』のレベルが、『紅楼夢』より低い
        というわけではない。ただ『紅楼夢』を読んだ人は、つぎに
        『源氏物語』を読んだとき、『源氏物語』にたいして、物語
        がつまらなくて、スケールがいたって小さい、ありふれた宮
        廷色情小説という錯覚におちいってしまうのである。
         ほんとうは、『源氏物語』のレベルのほうが、あるいは高
        いかも知れない。しかし、『紅楼夢』を読んだ人には、すご
        く他の古典がつまらないように見えてくる。
         だから『源氏物語』を訳したところで、まず台湾ではぜっ
        たいに売れないと太鼓判をおせるし、したがって、出版社の
        ほうも、売れない本を出す気になれない。
           -----------------中略-------------------
         中国人から阿片(今ではほとんど吸う人がいない)、マー
        ジャン、『紅楼夢』をとり上げたら、おそらくごく短い期間
        中に、アメリカをしのぐ強大な国になるだろう。今でも台湾
        は、マージャンや『紅楼夢』にかなり時間を費やしている。
    

     張さんの言う通り、『紅楼夢』は出版以来、中国社会の熱烈な歓迎を受けており、耽読したあまり瘋癲(ふうてん)になったり、肺病になって死んだ子女も多かったと聞いています。清朝末期には紅楼夢亡国論まで飛び出すありさまでした。その意味で、生身の中国人の心理を垣間見るためにも、『紅楼夢』とはいかなる書物か知っておいて損はないようです。ただ、ミイラとりがミイラにならないよう注意することが肝腎です。『紅楼夢』が中国人にとってどういう存在であるのかを知っておくだけでも、今後の中国人とのおつき合いに役立つのではないでしょうか。


    名著集