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日本脱藩のすすめ 第29号
中国古典(漢詩)
1999/04/05
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3月27日に行なわれた脱藩道場総会で、藤原肇さんに忠告されたことの一
つに、戦略・戦術の大切さがありました。その忠告を聞きながら、つくづく中
国古典を読み返さねばと痛切に思ったものです。そこで、いい機会ですので、
しばらく中国古典について筆をすすめてみたいと思います。
実は、ホームページ【日本脱藩のすすめ】で[中国古典]を昨年暮れまで掲
示していました。しかし、更新する時間がなかなか取れなかったので、他のほ
とんどのコンテンツ([脱藩事始]、[海外武者修行]、[英語道]、[超発
想]、[綜藝種智院]、[空海]、[坂本龍馬]、[松本道弘]など)と一緒
に削除したという経緯があります。そして、先月あたりから余裕が出てきまし
たので、削除したコンテンツからどれを復活させようかと迷いましたが、結局
、最初に復活させたのが[中国古典]でした。未だ未完成の状態ですが、今後
時間をかけて更新していきたいと思います。
ここで、脱藩と中国古典と何の関係があるのかと、疑問に思う読者が少なく
ないと思います。
そこで、中国古典を読みすすめることで何が得られるかと言えば、心の滋養
になる。(特に漢詩)、史眼が身につく(史記など)、戦略思考が身につく(
韓非子、孫子。特に道徳経)などがあげられと思います。
いずれにせよ、世界を舞台に活躍する脱藩人にとって、世界で通用する中国
古典の素養を身につけておいて損はないということだけは言えるのではと思い
ます。
最初は、漢詩から入りたいと思います。自然派詩人である柳宗元の「江雪」
を取りあげてみましょう。
千山鳥飛絶 千山 鳥 飛ぶこと絶え
万径人蹤滅 万径 人蹤 滅す
孤舟蓑笠翁 孤舟 蓑笠の翁
独釣寒江雪 独り釣る 寒江の雪
墨絵の世界を彷佛させる、枯淡の味わいある詩です。
自然派詩人と言えば、陶淵明の詩を取りあげないわけにはいきません。その
中でも、「廬を結びて人境に在り」は、「采菊東籬下」(菊を采る 東籬の下
」の句であまりにも有名です。
結廬在人境 廬を結びて人境に在り
而無車馬喧 而も車馬の喧なし
問君何能爾 君に問う 何ぞよく爾ると
心遠地自偏 心遠ければ地おのずから偏
采菊東籬下 菊を采る 東籬の下
悠然見南山 悠然 南山を見る
山気日夕佳 山気 日夕に佳く
飛鳥相共還 飛鳥 相共に還る
此中有真意 この中に真意あり
欲弁已忘言 弁ぜんと欲してすでに言を忘る
他にも取りあげたい漢詩は無数にありますが、読者自ら本を手にとって読み
すすめることをお勧めします。文庫版なら電車の中で読むことが出来、便利で
す。例えば、『唐詩選 上・下』(ちくま学芸文庫)などがあります。漢詩を
読むことによって、脱藩修行で疲れた読者の心を癒してくれるに違いありませ
ん。
『唐詩選 上・下』(ちくま学芸文庫)は、文字通り唐時代の詩を集めたも
のですが、それ以外に、『詩経』、『楚辞』をはじめ、陶淵明、蘇軾などの作
品にも目を通すといいでしょう。
ここで、張明澄という人の『間違いだらけの漢文』を取りあげてみます。張
さんは漢方の大家であり、東明社からも関連書を数点出しています。
その『間違いだらけの漢文』の中で、張さんが張継の「楓橋夜泊」について
言及しています。
月落烏啼霜満天 月落ち 烏啼いて 霜天に満つ
江楓漁火対愁眠 江楓 漁火 愁眠に対す
姑蘇城外寒山寺 姑蘇城外 寒山寺
夜半鐘声到客船 夜半の鐘声 客船に到る
この詩は、日本では人気があるだけでなく、最高の漢詩であるという評価を
得ているようです。それに対して、張さんは次のように反論しています。
「....この詩は七絶のなかでは、Bクラスであり、さほど優れた詩になって
いない。
意境から言ったばあい、月が落ちそうになっており、烏の鳴き声があり、霜
があるから、楓や漁り火などと合わせて、なるほど景色がうまく描写されてい
る。
また、愁いに眠っている船のなかに、寺の鐘がひびいてきて、非常に情緒が
あり、ほんとうにじいーんとくるだろう。
しかし、欠点も非常に大きい。
第一に、七絶はみなで28字しかないのに、第三行はなにも語らず、ただ、
「姑 蘇 城 外 寒 山 寺」
と、地名のめに七字も浪費している。
詩は少ない字数の中で、多くの意味をおりこまないといけないのに、たかが
地名を示すだけで、全体の四分の一を使ったのである。
こういう欠点は、日本の漢学者にもよくお分かりのことと思うが、つぎに述
べる音感的な欠点は、おそらく日本の漢学者が気ずいていないことにちがいな
い。
第一行目の
「月 落 烏 啼 霜 満 天」
を中国の発音で読むと、
「去 去 陰 陽 陰 上 陰」
となり、ほとんどドイツ語に近いような、非音楽的な、とても耳ざわりな感
じのするリズムになる。....」
では、七絶の最も優れた詩はどれか。張さんによれば、杜牧の「寄揚州韓綽
判官」こそ、中国の詩人から見て最も優れた詩だそうです。その辺は『間違い
だらけの漢文』に詳しく述べられていますので、参照ください。
青山隠隠水迢迢 青山隠々 水迢々
秋尽江南草未凋 秋つきて 江南 草いまだに凋れず
二十四橋明月夜 二十四橋 明月の夜
玉火何処教吹簫 玉人いずこで簫を吹かしむるや
これ以外にも、様々なユニークな発言を見い出すことができます。例えば、
「中国人からマージャン、紅楼夢を取りあげたら、おそらくごく短い期間中に
、アメリカをしのぐ強大な国になるだろう。いまでも台湾では、マージャンや
紅楼夢にかなり時間を費されている。」などです。
張さんの言うことをそのまま受け容れるかどうかは別にして、他にも色々と
ユニークな視点で書かれた著述が多いのです。詳しくは、『間違いだらけの漢
文』を参照ください。
漢詩は、自然だけがテーマではありません。人生・望郷などの詩も多く、一
流の作品も少なくありません。すべてと取りあげるわけにはいきませんので、
よく知られた二つの作品をのみ取りあげておきます。最初は李白の「静夜思」
。
牀前看月光 牀前 月光を看る
疑是地上霜 疑うらくは是れ 地上の霜かと
挙頭望山月 頭を挙げて 山月を望み
低頭思故郷 頭を低れて 故郷を思う
李白と同じような思いをしたことがあります。それは、3年間の世界放浪の
旅をしていたときでした。それは、アメリカのミシシッピー辺りの田舎のホテ
ルだったと思います。
李白の作品を出したからには、杜甫の作品を取りあげないわけにはいきませ
ん。「登岳陽楼」
昔聞洞庭水 昔聞く 洞庭の水
今上岳陽楼 今上る 岳陽楼
呉楚東南圻 呉楚 東南に圻け
乾坤日夜浮 乾坤 日夜に浮ぶ
親朋無一字 親朋 一字無く
老病有孤舟 老病 孤舟有り
戎馬関山北 戎馬 関山の北
憑軒涕泗流 軒に憑りて 涕泗流る
望郷と孤独の念をうたう杜甫の心情がヒシヒシと伝わってくるようです。世
界を放浪中の脱藩修行者に共感を呼ぶような気がします。特に、脱藩修行を終
え、海外で静かに余生を送る先達には、この詩の心が痛いほど伝わってくるの
ではないでしょうか。
最後に、前号でもお知らせしましたが、3月27日の脱藩道場総会に出席出
来なかった読者に朗報です。藤原肇さんをゲストに、「脱藩会」が下記の通り
行なわれます。議論に参加するチャンスですので、是非ご一考ください。
当日は、『理は利よりも強し』(太陽企画出版)と『経世済民の新時代』(
東明社)を叩き台に使う予定です。
・日時:4月10日(土)午後5時〜9時
・会場:豊島区高田3-8-5 セントラルワセダ2階 電話:03-3986-0684
・会費:1000円
==========================訓言==========================
桃季言わざれども下自ら蹊を成す
[とうりものいわざれどもしたおのずからみちをなす ]
桃李不言下自成蹊 『史記』(李将軍列伝)
[解説]桃や李は黙っていても、花をめで実をとろうとする
人びとによって自然に道ができる。人格者のもとには自然と
人が集まってくる、ということ。
漢の将軍李広をほめたことばのなかにある。
最近の政治家、官僚、財界人には腐った桃や李が増えていま
すが、そうした腐った花や実を好んで集まる人が多いような
気がしてなりません。同じ人間として生まれたからには、美
しい花や美味しい実のもとに集まりたいものです。
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脱藩道場 編集部 亀山信夫 葛巻岳
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