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日本脱藩のすすめ 第38号
セマンティックス(1)
1999/06/07
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今号からのコミュニケーション・シリーズは、セマンティックスです。
[1] セマンティックスとは何か
セマンティックスという言葉に初めて接する読者が多いかと思います。最初
にGeoffrey Leech 著『Semantics』にあるセマンティックスの定義からみてみ
ましょう。
Semantics (as the study of meaning) is central to the study
of communication; and as communication becomes more and more
a crucial factor in social organization, the need to under-
stand it becomes more and more pressing.
Semantics is also at the centre of the study of the human
mind - thought processes, cognition, conceptualization - all
these are intricately bound up with the way in which we clas-
sify and convey our experience of the world through language.
また、次のような定義もあります。
単語の意味の歴史的な背景の把握に始まり、言語のさまざまなレ
ベルでの意味のあり方を知り、単語間の構造関係や記号的役割を
位置づける学問。(『理は利よりも強し』 藤原肇著)
[2] 何故、セマンティックスか
セマンティックスの輪郭がおぼろげながらも掴んで戴けたかとおもいます。
次に、では何故セマンティックスなののかという点についてですが、実はメ
ールマガジン【日本脱藩のすすめ】第14号で既にそのあたりを述べています
。その中で、セマンティックスの重要性をを的確に述べたダイアローグを転載
しましたが、参考までにその一部を再度転載しておきましょう。
藤原:セマンティックスという言葉を理解できる人が、今の日本
には少ないのじゃないですか。私が『平成幕末のダイアグノシス
』という本を出した時に、広告を見たある商社の副社長が『藤原
さん、今回は地質学者として恐竜の本を書かれたんですか』とい
うので、何のことか分からずに面食らったのですが、[ダイアグ
ノシス(診断)]を恐竜の[ダイノゾア]と混同しているんです
よ(笑い)。いくら『ジュラシック・パーク』の映画がヒットし
たからといっても、この間違いは酷いものですよ・・・。
正慶:商社の副社長にしてその程度なんですね。日本人は戦後テ
クニカルなスキル(工夫)はうまくなったし、ヒューマン・スキ
ルもある程度はうまくなった。しかし、コンセプチュアルなスキ
ルにおいては、依然として落第なんですね。一つのコンセプトを
深めたり、広めたりしていくことができなくて、セマンティック
スのレベルまで達していない。
藤原:片仮名語は氾濫しているけれども、中身の方がついていっ
てない。
正慶:ジャパン・プロブレム(日本問題)というのは、実は日本
にセマンティックスがないことから生まれている。
藤原:そう。意味論がなかったらコミュニケート出来ないし、国
際化とはセマンティックスの一般化のことなのです。
正慶:セマンティックスがないから、ディベートも出来なければ
取引もできない。
藤原:国際的に相手にされないのも当然ですよ。
[3] 議員とロビイスト
これで大分セマンティックスの輪郭が掴めてきたのではないでしょうか。こ
こで、さらに幾つかの例をあげることで、セマンティックスとはどういうもの
かをより具体的に迫ってみましょう。最初は「議員」と「ロビイスト」です。
まず、アメリカを例にとってみます。アメリカの場合は上下両院から成る二
院制をとっています。
上院(Senate)には各州から2名ずつ一般投票で選ばれ、定員が100人、
任期6年で、2年ごとに3分の1ずつ改選された上院議員がいます。議長は副
大統領が兼任ということが憲法で定められており、本会議の表決が賛否同数の
ときのみ投票権を持ちます。議長代行は最年長議員が勤めることになっていま
す。上院の主な仕事は(1) 法案審議、(2) 閣僚、大使、連邦裁判所判事、政府
機関幹部など大統領が指名した人事の承認、(3) 条約の批淮承認などです。
下院(House of Representatives)には、各州から人口比によって選出され
、定員を435人の他に、首都ワシントンから1人選ばれる代議員(審議には
参加できるが、議決権はない)などの下院議員がいます。2年ごとに全員改選
され、任期中の欠員は補欠選挙が行なわれ、残りの任期を勤める。議長は下院
の多数党から選出される。仕事は、上院のように人事、条約の批淮承認の承認
権はもたないものの、予算に関する法案の審議は下院で先に行なわれます。
以上、簡単にアメリカの上下両院について簡単に述べました。
次にロビイストですが、簡単に言えば、ロビイストとは議会の決定、特に議
案の通過に影響を与えるために組織された集団のことを指します。
なお、ここで注意すべきことは、アメリカでは議員とロビイストははっきり
と分けられているという事実です。
議員とロビイストを分けるものは何かということについては、アメリカの議
員の職責は何かという視点から眺めるといいでしょう。
アメリカでいう議員の職責とは、社会が必要な政策課題に対して優れた解決
策を選択するというところことにあります。ここでいう、優れた解決策を選択
するためには、何が必要か? それは言うまでもなく、インテリジェンスです
。(インテリジェンスについては、メールマガジン第15号で概略を述べてい
ますので、そちらを参照ください。)
翻って日本の場合はどうでしょうか。大変残念ながら、日本の国会は堕落し
ており、議会としての機能を果たしていません。それは、国会議員がロビイス
ト化しているのが一つの大きな原因です。アメリカではロビイストは登録して
いるだけに過ぎませんが、日本ではロビイストを議員がしている有り様です。
当メールマガジンでも幾度か述べている通り、現代は情報革命の前夜にあた
り、古い秩序が急激に崩壊しています。そうした急激な変化をしっかりと捉え
て国政、すなわち日本の進路の舵取りを行ない、新しい時代に備えて法律の起
草等をするといった国務を指揮するのが日本の頭脳としての国会議員の職責で
あるべきなのです。
ところが、国際常識というものに欠け、新しい時代に適応する頭もなければ
政治的理想もない上、志というか政治の理想を持たない議員がほとんどです。
現在の日本の国会議員の半数近くが二世議員であり、前の首相、橋本龍太郎
のようなリーダーシップの欠片もない無能な議員が大半です。
二世以外の議員も派閥レベルの利害に基づく古参官僚やタレントが多勢を占
め、インテリジェンスの片鱗もない議員がほとんどであり、そうした連中が利
権屋という自分が属する党や選挙区の利害のために部分を全体に優先させてい
るのが情けない日本の政治の現実です。
結論として、インテリジェンスの有無が日米両議員の違いであると言えそう
です。
[4] シンクタンク
『理は利よりも強し』(藤原肇著)では、シンクタンクを次のように定義し
ています。
公共の利益のために長期的な政策を立案して、その実現のプロセ
スを提言するシンクタンクは、単なる知識の集積としての研究者
ではなく、専門知識と多様な経験に裏打ちされた集団による、情
報のインテリジェンスを扱う機構である。
だから、個性的な思想と判断力を統合した上で、多様性に基づい
たビジョン作りを行なう、プロの水準を保つ総合力に秀でた頭脳
集団の育成は、日本の体質を改める上で優先度が高い。
しかも、シンクタンクは営利を求めない組織であり、社会のグラ
ンドデザインの構築を目指して、数理哲学の基盤と判断力を誇る
専門的集団が、高い目標を目指して課題に取り組んでいる。政策
の立案と実行の提言を行なうに際して、営利を活動目的にしない
という点は、シンクタンクの本質を知る上での基本だが、この理
解に至るまでには私は長い時間を費やしている。
これは企業の宣伝や調査を請け負うだけであったり、企業のための提灯論文
を作成するだけのインテリジェンスの片鱗もない日本のほとんどのシンクタン
クとか総研と称している団体は、シンクタンクの名に値しません。日本にある
シンクタンクで、本当のシンクタンクであると言えるのは、ケンブリッジ・フ
ォーキャスト・グループなどごく僅かしかないでしょう。
ここでも結論として、日米のシンクタンクの違いはインテリジェンスの有無
だと言っても過言ではないようです。
『理は利よりも強し』のシンクタンクの定義を考えるに、新聞こそシンクタ
ンクに近い体質を、本来は持っているものであると言えるのではないでしょう
か。
つまり、世界動向をを文明の視座から捉え、関連性や因果関係を掘り下げる
という作業を通じて、目に見えない背景の分析や解説をするのが、ジャーナリ
ズム本来の仕事と言えます。社会の木鐸とはよく言ったもので、それこそジャ
ーナリズムのあるべき姿を如実に示していることばではないでしょうか。
しかし、日本の大新聞は、そうしたジャーナリズム精神を見失っています。
例のリクルート事件で大新聞社の幹部が未公開のリクルート株を受け取って以
来、それまであったジャーナリストの覇気のようなものが失われてしまってい
ます。そのあたりは、『朝日・読売の火ダルマ時代』(藤原肇著 国際評論社
)に詳しいので関心のある読者は一読ください。
大新聞が社会の木鐸たり得ないとなると、何を頼りにしたらいいのでしょう
か。
今後の日本社会の木鐸の役目をするのは、在野の野武士的な集団が担う可能
性が高いように思われます。その意味で、今後は脱藩道場からインテリジェン
ス能力を備えた若い人たちが輩出し、彼らが幾つかのシンクタンクを造るよう
になれば、日本はかけがえのない宝を手にすることになります。
脱藩道場では、そうしたことを一つの主要な目標として掲げ、今後も精進し
ていきたいと思います。
再来週の第40号は、小室直樹 vs. 藤原肇の対談記事、「意味論音痴は日
本を亡ぼす」をお届けします。それ以降は、その記事を叩き台に、セマンティ
ックスについて数回にわたって筆をすすめていく予定です。
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【情報】No.1 完全で良質な情報の条件
今号より、コミュニケーション・シリーズについて述べる号に限り【情報】
を時折述べていきたいと思います。このミニコラムを通じて、情報とは何かと
いうことについて再考して戴ければ幸甚です。
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阪神大震災では多数の死傷者を出しましたが、それは、「完全で良質な情報
」を政府が流さなかったためであること、つまり、危機管理がマヒしていたと
いうことが主な原因であるは周知の事実です。そうした意味で、あの震災は人
災であったと言うことができます。
なお、ここで言う、「完全で良質な情報」とは、下記の条件を充たした情報
のことを言います。
(1)明確性 [情報を利用しなければならない者にとってその情報が理解可
能であること]
(2)適時性 [利用者の必要に即応できること]
(3)信頼性 [同じ手順を使う多様な観察者が同じ方法で情報を観察できる
こと]
(4)妥当性 [現実を理解するための具体的な概念と尺度を備えていること
----この基準には論理一貫性、正確な予測、既存の知識または独自的資
料との整合性が含まれる]
(5)適切性 [説明が完全になされうること----行為の前後関係、問題、故
人または集団の生活の説明]
(6)広域性 [組織目標を最大限に達成せしめるような主要な政策について
の選択的余地や新しい組織目標を示唆しうること]
『組織のインテリジェンス』(H・L・ウィレンスキイ著 阿倍他訳 ダイヤ
モンド社刊)
しかし、現実はそうした良質の情報はごく僅かであるし、ゴミのような情報
やデイスインフォメーション(虚偽の情報)が大半を占めているのが現実であ
ると言っても差し支えありません。
そうした常態の中、われわれは完全かつ良質の情報を掴む手段を講じる必要
が出てきます。しかし、情報収集の段階であるインフォメーション以降の、情
報を分析・評価・判断するという段階はインテリジェンスの領域に入り、これ
は専門的な知識と経験が要求されるため、こうした作業をわれわれの代わりに
行なってくれる第三者を必要とします。
ここで、欧米のような利益を求めないシンクタンクのような存在、すなわち
オムブッツマン制度が日本でも出てくれば望ましいのです。
伝えられるところでは、『ワシントン・ポスト』がマスコミ界のオムブッツ
マン役を担っていると聞いています。第25号「海外の雑誌・新聞を読む」で
も『ワシントン・ポスト』を推薦した背景にはこういう事情があったのです。
『ワシントン・ポスト』のホームページ(http://www.washingtonpost.com/
)がインターネットにありますし、また新聞を定期講読すると高いものについ
てしますので、『ガーディアン・ウィクリー』(http://www.guardian.co.uk/
)の講読をお勧めします。これは週一回の発行ですが、『ワシントン・ポスト
』のダイジェスト版4ページ分が毎週転載されており、これらは見逃すことの
できない、非常に価値のある情報が満載されています。
また、今年の1月から別途特別割増料金を払うことで、月一回発行される『
LE MONDE diplomatique』も読むことができます。
本物の情報を追い求めていきましょう。
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