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日本脱藩のすすめ 第64号
言葉 過去と未来(最終回)
2000/11/16
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[4]言葉の未来
前号では、人類の過去一万年を対象に、自然環境のもたらした言葉への影響
を考察してみました。今号では、言葉の未来について想像をふくらませてみた
いと思います。
最初に、18世紀のイギリスを発祥の地として起こった産業革命は、人類史上
初めて自然環境を主因としない「民族大移動」を可能にしました。たとえば、
現在は1日にして地球の裏側に飛行機で行けるようになった事実を見るだけで
も産業革命がもたらしたインパクトの大きさがよく分かります。これは、もは
や民族は自然環境の変化に関係なく、距離という空間の壁を乗り越えた証と言
えるでしょう。
しかし、ここで「時空」について思いを巡らせてみるに、民族は時空の"空"
という距離の壁を乗り越えたものの、"時"の壁も乗り越えたと言えるのでしょ
うか? ここで言う"時"とは、言語・宗教・思想の壁を乗り越えた、すなわち
「脱藩」のことを指し、脱藩の観点から言えば、人類が真に脱藩を成し遂げた
とはとても言えない状態です。
これは、空の壁を打ち破った移住者を見れば明らかです。彼らは移住先では
その地で使われている言語に組み込まれ、その移住者の二世・三世ともなると
完全に移住先の言語が母語化しまい、移住先の"時"に完全に同化してしまうの
が通常です。無論、中には頑なまでに祖国の言葉・宗教・思想を守り、二世・
三世に伝えているグループもありますが、あくまでも少数派です。民族は距離
に相当する空は克服しましたが、時に相当する脱藩を成し遂げるには至ってい
ないことがこの例からも明らかです。
ところが、農業革命、産業革命に続く第三の大革命といわれる情報革命を本
格的に迎えようとしている今、最後の“時”の壁をも乗り越える可能性がおぼ
ろげながらも見えてきました。
時の克服ともいうべき画期的な出来事が、人類全体にわたって近い将来起こ
り得る可能性があるとすれば、それは、各々の民族がそれ固有の思想・宗教・
言葉といったものを残した上で、さらにもう1つの、全人類共通ともいうべき
思想・宗教・言語を獲得するという流れになるでしょう。これは、もはや民族
の大移動と表現するよりは、民族を超越した「人類の(精神的な)大移動」と
でも表現した方が相応しいと思います。
以上、きたる情報革命後の世界においては、人類共通の宗教・思想・言語な
るものが生まれる可能性が芽生えつつあり、今回のテーマである言語について
述べるとすれば、現在の世界語としての米語から、その米語を中心に世界の諸
民族の言語が交じり合った言葉、すなわちパシフィカル語が、今後の数百年あ
るいは千年という時間の単位で誕生するものと思われます。
パシフィカル語とは、藤原肇博士の造語ですが、パシフィカル語を初めて目
にした読者のために、博士の考えるパシフィカル語を以下に引用します。パシ
フィカル語の、おおよその輪郭を掴んでいただければ幸いです。
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古代の地中海文明のコミュニケーション媒体は、ロゼッタ
石や新約聖書で見られるように、ギリシア語が世界語として
機能しました。また、ローマ帝国からルネッサンスまでの時
期は、パックス・ロマーナの時代性を反映して、ラテン語が
世界語だったので、モーツァルトの主要オペラやニュートン
の学術論文『プリンキピア』などは、ラテン語やその子孫の
イタリア語で書かれています。それに、18世紀に起こった産
業革命は、パックス・ブリタニカが支配的になったために、
大英帝国の方言のイングランド語が世界語になりました。20
世紀にはその中心が米国に移ったので、経済力と軍事力によ
るパックス・アメリカーナが確立し、英語の方言である米語
が世界語として通用しています。これからパックス・パシフ
ィカムの時代になると、パシフィカル語が世界語になるのは
歴史の必然です。
それではパシフィカル語の実体ですが、言葉の構造の基本
は米語を母体にするが、意味論的には新しい雑種の性格を持
ち、太平洋周辺に存在している各種の文化が、言語を通じて
混じり合い、米語、インディアン語、日本語、朝鮮語、中国
語、タガログ語、スペイン語、インドネシア語、ポリネシア
語などが混血したものになるでしょうね。
また、この問題を考えるうえでもっとも大切なことは、現
実に体験している文明的な事件で言えば、コンピュータの普
及に見る情報革命です。コミュニケーション媒体としてのラ
ンゲージは米語が中心だが、これがだんだんとパシフィカル
語になり、それがわからないと新種の文盲になるということ
です。この動きに反対の立場で攘夷論を主張するより、むし
ろ文明の新しい流れを読み取って、いち早く対応の準備をす
るとともに、戦略を確立することが必要です。
『地球発想の新時代』P.153
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[5]おわりに
過去の一万年において、人類最大の危機は、3500年前でした。そうした自然
環境の脅威を民族大移動によって見事に人類は危機を乗り越えたのは前号です
でに述べた通りです。
では、これからの一万年において、どのような最大の危機を人類は迎えるの
でしょうか?
それは、恐らく、「人工」環境の脅威によるものではないかと思われます。
人工環境によってもたらされた環境破壊は、少なくとも21世紀の人類への最
大の試練となることは間違いありません。また、戦争による環境破壊、たとえ
ば核戦争がもし起こった場合の地球の汚染も人工環境を巡る問題の1つです。
その他、ダイオキシン汚染問題などもあります。
しかし、不幸にして、人工環境の克服を人類がなし得ないとしたらどうでし
ょうか。その場合、人類は同じ太陽系内の新フロンティアを目指すのに違いあ
りません。
人類最大の危機を、3500年前の民族大移動によって乗り越えた人類は、今度
は民族大移動ならぬ、「人類大移動」を起こすのかもしれません。それは、例
えば火星への人類大移動などが考えられます。これは、火星を第2の人類のオ
アシス、故郷に改造し、人類が火星へ大移動するという計画です。
最後に、人類の遠い未来について思いをはせてみます。
幸いに、宇宙は無限大と言っていいほど広大であり、たとえ太陽系内を開発
し尽くし人類が住める場所がなくなったとしても、目を太陽系の外に向ければ、
この広大な宇宙のどこかに、私たちの子孫が繁栄できるであろう惑星、第2の
地球があるのは想像に難くありません。そして、その第2の地球も住めなくな
ったら、第3の地球を目指して人類は宇宙の旅を続けるのでしょう。
それは、もし宇宙に終りがあるのなら、宇宙終焉まで続く旅です。
完
※ 参考文献
・『宇宙巡礼』 藤原肇・張錦春共著 東明社
・『地球発想の新時代』 藤原肇著 東明社
・『あえて英語公用語論』 船橋洋一著 文春新書
・『太陽が死ぬ日まで』 ロバート・ジャストロウ著 集英社
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編者 亀山信夫
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