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日本脱藩のすすめ 第71号
パックス・アメリカーナ・グローバル市場資本主義文明の時代に生きる(1)
2001/11/05
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■■■ パックス・アメリカーナ・グローバル市場資本主義文明の時代に生きる (1)
■■■
■■■ 金子純一
■1.ノブレス・オブリジュと新世紀の文明展望の意義について
無字天書を読み、そこから本質的に重要なことを読み取り、それらに常に思いを巡
らしつつ、広い視野を確保し諸事を深く掘り下げ、物事の相互連関を解して、先人に
学び後進の肥やしとなる覚悟を持つものこそ、自らが生きる時代の制約を乗り越え、
人間の叡智の水脈を受け継ぐ役割を担った真の知識階層といえよう。
そのような真の知識階層に属する人々は、歴史に学び、歴史をコンパスや鑑として使
い、現在の時代が置かれている座標軸と位相を知り、将来の展開を診断して、最善の
方針を適切に指し示すことで、文明社会の進路について隠然として重要な影響をもた
らしている。
20世紀から21世紀に掛けて生きる市井の凡夫に過ぎない小生に、自分はほとんど
何も判っていないということを感得させ、何が尊い行為であり、やるべきでないこと
は何かについて、かすかに頭をめぐらすことが出来る気配をもたらしてくれた最大の
要因は、藤原さんの著書や言論活動に他ならず、また自分がそれに巡り合う僥倖に恵
まれたことである。
私は、藤原さんが、地に潜む本物の知識人・言論人として尊い志を貫き、多大な労苦
の上に著書や言論活動を継続して手がけてこられたことに対し、読者の一人として深
い感謝の念を抱くものである。
歴史を踏まえて、自分が生きる時代の世界システムを総体的に捉えて、宇宙システム
を前提とした自らのコスモロジーの中にそれを位置付け、この先にどういう文明社会
を築くべきかというビジョンを希求することはとても大切である。
コスモロジーの形成、世界観、文明観、歴史観の希求・模索という、日々の絶えざる
挑戦と研鑚の積み上げをもとに、自らを取り巻く社会環境やコミュニティが抱える諸
問題に取り組み、人々の価値観形成に主体的に関与していくことこそが知識階層とし
てのノブレス・オブリジュではないだろうか。
さて我々は既に20世紀を生きて、各人の人生という形で歴史の一部分を構成し、大
きな歴史の流れの形成に否応なしに関わって、現在21世紀の出発点に立っている。
前世紀の末期を振り返って見れば、それは、情報革命の進行、米国の冷戦への勝利
や、グローバルな市場資本主義経済の台頭、金融技術の高度化・複雑化、本格的な人
工衛星時代の到来等の流れの上に、米国の好景気持続と未曾有の株高が実現した時代
であった。
それは、英米中心のパックス・アメリカーナ覇権がより強固なものとしてグローバル
に確立された時代であるとともに、ヨーロッパ共同体が国民国家の桎梏を乗り越えて
ユーロの発行に漕ぎ着け、ついに本格的な結束を実現して、パックス・アメリカーナ
覇権と非対称的に並存・拮抗する足場を築いた時代でもあった。
しかし、続く新世紀は、米国でのブッシュ政権の誕生やそれに続く9.11事件を幕
開けとして始まり、世界の舞台は大きな変動期に入る様相を呈しており、現在、多く
の人々が将来に対する不安を抱く状況が生まれている。(特に日本はバブル崩壊後1
0年を越えた不況と政治退廃による国民の精神的な蓄積疲労と混乱が極限に達してい
る上に、さらに世界大恐慌による厳しい試練を受けるので、右翼の躍進などで新たな
混乱の火種が生まれる可能性がある。)
この歴史的変動の背景、及びこの先の歴史展開のフレームワークについて文明論と国
際関係論の枠組みを押さえつつ展望してみることは、この先にどういう文明社会を築
くべきかというビジョンを求めることに他ならず、世界市民の一員として進むべき進
路を見定めるという積極的かつ戦略的な営為に直結したことで意義深いと考える。
かつての旧幕藩体制末期の混迷した日本には、因習を断ち切り困難を乗り越えて脱藩
を果たし、広く国内諸国や海外に出かけて見聞を広めた後、直接あるいは間接的な手
法で自藩の経世済民や日本の国づくりに果敢に取り組んだ志士達がいた。
日本の若い人材が、平成幕末現象の極みにある日本の世相に引きずられて夢を失うこ
となく、幕末の志士の志に習って、日本を精神的・物理的に脱藩して、広く世界に出
て見識を磨き、世界のどこに暮らすとも、地域社会に貢献しつつ、母国の諸問題に高
度に関与する志とゆとりを持ちつつ、世界市民として新しい文明を展望し、その建設
に主体的に貢献しようと志すことはたいへんに尊いことである。
そして、それは日本やアジア地域の安全保障の面からもたいへんに重要である。
■2.20世紀とはいかなる世紀であったか
後世の歴史家は20世紀を要約するときどのように記すだろうかと思いを馳せつつ、
私の見方について述べたい。
私は、20世紀は、産業革命後の「テクノロジー進歩の世紀」であり、「石油と天然
ガスの世紀」「革命と戦争の世紀」「人口爆発の世紀」であったと考える。また言う
までもないことだが、「農業革命」「産業革命」に続き、20世紀の後半からコン
ピュータと通信の発展により人類が「情報革命」の新時代に入り、「知識集約型社
会」に入った変革期であった。
また、私は、20世紀後半以降、世界の政治・経済の主体が「国民国家・国民経済」
の単位を超えて、グローバルに展開された「世界数百社の多国籍企業による国際寡占
体制」に移行し、それらの頂点に立つ米国系を中心とするわずか数行の多国籍巨大銀
行に収斂する「世界金融寡頭制」がもたらされたという見方(注1)に賛成である。
私には、この20世紀は、米国を主要なビークルとして使う国際金融資本と、それら
のパワーの影響下にある国連諸機関やIMF、世界銀行、BISや各国中央銀行家の
ネットワーク及びWTO等とが連携することによって、21世紀につながる「パック
ス・アメリカーナ体制」「グローバル市場資本主義体制」のフレームワークが構築さ
れた世紀として捕らえることが妥当だと考えている。
(注1 岩城淳子著 「国際寡占体制と世界経済」 御茶の水書房1999 )
■3.9.11事件と「New World Order」のゆくえ
さて今回の9.11事件後、この事件を、20世紀後半に台頭した国際的な市場資本
主義システム及びそれを統括して繁栄した米国の崩壊・後退の始まりと結びつけてと
らえた意見に接することが多い。
結論から言うと、私は全く反対の立場であり、今回の事件は、藤原さんのエネルギー
史観(1)の時代区分で言う中期帝国主義時代、あるいは第二文明期の中期(大
陸次元の石油期)から後期(地球次元の天然ガス期)の変わり目に位置付けられるもの
であり、犯人探しはさておき、事件が置かれた座標軸と運動のベクトルを見れば、帝
国主義時代前半戦の成果として築き上げられたいわゆる「New World Order」の構造
的強化に直結した帝国主義的な動きを誘発する事件となると見るべきだと考えてい
る。
すなわち私は、中央アジア・中東での戦火拡大及び世界金融恐慌の後、英米及び欧州
という二極による、エネルギー覇権の確立、ならびに部分的金本位制等の方法による
ドルとユーロという2大基軸通貨システムの根本改革を伴うシニョリティ強化によ
り、結果的に欧米系多国籍企業が世界のエネルギーと市場の双方を制すると見てい
る。
また、21世紀の世界の資本主義体制を生産面から大きく担う中国については、欧米
国家が間接・直接及びハード・ソフトアプローチで、人民解放軍対策やエネルギー確
保問題を含めた中国国内の諸矛盾の中和に取り組むことになろう。
この中国対策の成果と、上記の英米及び欧州という北半球の2極の構造的進歩の2つ
の組み合わせによって、21世紀は資本主義体制がさらに栄える時代になると考える
ものである。
新世紀に入ってから既に米国の巨大バブル崩壊の症状が顕著にあらわれてきたところ
へ、9.11テロ事件が起き、現在は世界的大不況の報道が日々新聞紙面を飾るよう
になり、いよいよ日本の公的部門や中南米経済の破綻顕現化が眼前に迫ってきた。
米国株・債権の暴落やドルから他の通貨への資本逃避が起きれば、金融システムに巨
大なストレスが発生し、それが実態経済に反映して世界金融恐慌から大恐慌という事
態も充分に想定される状況になった。
しかし、私は、大恐慌レベルの資本主義危機及び米国経済危機の大半は、Grand
Strategy展開の一環として複数のシナリオの一つとして織り込み済みであり、大胆な
通貨制度変更さえ含んだ各種ケース別対応策でヘッジされていると見ている。
つまり、大恐慌はあっても、現実問題としては、それがパックスアメリカーナ・グ
ローバル帝国主義体制そのものや、その体制下の金融・市場至上主義型の資本主義を
根底的に揺るがす確率は低いと考えているのである。
おそらく、テロリスト対策の大義名分のもとで、グローバル市場資本主義を脅かす者
への監視制度が広汎に強化・正当化されるなかで、ゲームのフィールドとして欠かす
ことのできない条件である「貿易と投資の自由」はWTO等を通じてより一層称揚さ
れ、強化されていくであろう。
また、貧困問題・南北問題・失業問題は、先進国富裕階層がフィラントロピー精神を
今まで以上に発揮するようにすれば相対的な改善は図られようが、人口問題、資源問
題、途上国債務問題に加え、大競争により世界各国で上位所得階層への所得集中や大
規模な失業が発生しており、知識集約型社会化で必要な教育が高度化するなかで、貧
富格差の拡大やデジタルデバイド加速の問題もあるので、南北・貧困・失業問題は根
本的な改善は捗らないであろう。
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執筆人 金子純一
編集人 亀山信夫
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