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                日本脱藩のすすめ  第74号
                
              荘園制を乗り越えるには

                                                               2002/01/01
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 2001年11月3日の第7回・脱藩道場総会に参加した八尋昇さんから、脱藩道場総
会の感想、ならびに「荘園制を乗り越えるには」と題した寄稿がありました。編集部
で検討した結果、内容的に示唆に富むものと判断し、以下に発表します。

 特に後半の「荘園制を乗り越えるには」は、過日の脱藩道場総会でも主なテーマの
一つであっただけでなく、昨年の米国テロ多発事件をきっかけに激動する世界にあっ
て、読者の皆さんの行動指針のヒントとなり得る可能性が高いものと思われます。

 なお、八尋さんの寄稿を一読の上、皆様のご感想・ご意見をお聞かせ願えれば幸い
です。
※ 頂いたメールは、原則的にメーリングリスト【藤原肇】に転載させていただきま
  すが、転載不可の場合は必ずその旨明記願います。



■■■ 脱藩総会に参加した感想
■■■ 
■■■ 八尋昇

 去る11月3日、藤原さんをお迎えして約5,6時間の議論に わたくし(八尋)
は初めて参加し、それからおよそ1か月以上がたち思い起こしてみると、一番強く印
象に残っているのは、コミュニケーションにおける対話のあり方であったと思われる。

 私自身、自分の考えていることを的確に相手に伝え、それを継続していくことの難
しさを痛感した。総会の出だしは、十人十色の各自が自分の視点で気づいたことをバ
ラバラに述べ、(特に私はよくかきまわした)全体として、まとまりを欠くように感
じたが、しだいに互いの異質性とうまく関わりあい、かえってその距離がよき心地さ
えも覚えるようになってあっという間に時間が過ぎたのであった。

 さて、私が今後に生かしたい収穫といえば対話を通じた情報収集の基礎トレーニン
グの方法論である。普段、本を読んだり、思索に耽るタイプの人間は人より多少、言
葉を多く持つが故に他人の話を冷静に観察する傾向にあるが、それは同時に自らがつ
くりだした観念の中で自己完結している滑稽さに気づかない事がある。藤原さんの本
には対談形式が多いが、これは対話を通じて、より多くの読者が同時に議論に参加で
きるように構成されていて常に他者との関係性を意識するとともに、そこにうつし出
される自画像を垣間見る事ができると思う点である。それを具体的に今回の総会での
体験に基づいて言うと、人は自分の存在基盤を自己防衛する時に本音を出しやすく、
この事は逆に考えるなら、相手が依拠する存在基盤を読み取り相手から自分の知りた
い情報を引き出すことが情報系人間の姿に思えた。ただ、それを殺伐とした尋問のよ
うなものではなくユーモアと文化の香をにじませながら、やるのが素敵なインテリジ
ェンスのセンスと言えようか。その意味では脱藩総会の雰囲気は実に和気藹々で藤原
さん自身が頻繁に助け船を出すかたちで盛り上がり、楽しいひと時であった。

  

■■■ 荘園制を乗り越えるには
■■■ 
■■■ 八尋昇

 脱藩総会での成果を肉付けする形で、荘園制を述べさせていただきます。読者の皆
さんの建設的なご意見・ご批判を期待致します。

 最初に、本稿は以下の構成なっています。

 1、何故、日本は荘園制から抜け出せないのか。
 2、何故、荘園制が発生し、今日の日本に未だに残っているのか。
 3、抜け出す(脱藩)ためには何が必要か。

 最初に、1〜3について簡潔に私見を述べ、次に1〜3についてそれぞれの背景を
説明していきます。


■1、何故、日本は荘園制から抜け出せないのか。 私見

1、荘園制とは、奈良時代から室町時代にかけて貴族、寺社、地頭(武士)が領民を
所有した制度だったと記憶しているが、それは現代的な視点で判断するなら場や状況
を離れる事が社会生活の死を意味するような強迫観念をもって被虐のメンタリティー
を植え付け、自己認識を奪う閉鎖的な柵のことでもある。
 そのような状況化に慣れてしまうと、人間は自由を解放というより、時に抑圧と受
け止める不自由な性質を持っているからだ。


■2、何故、荘園制が発生し、今日の日本に未だに残っているのか。 私見

2、今まで 思考、行動、秩序の前提となってきた様々な境界によって引かれた固定
観念が形骸化し、社会の流動化と複雑化の激しさがより多くの選択肢を獲得できる自
由度を増したが、それが同時に人々を不安にする要因にもなっている。
 日本に限らず世界中において見られる現象で、程度の差こそあれ、互いに同調圧力
を及ぼしあうことによって、自らの存在価値の脆弱性を覆い隠す欲求が生じる。それ
こそがまさに荘園制の温床と言えるだろう。
 自由からの逃避であり、人間の尊厳を否定する巧妙な社会的装置でありさえする。


■3、抜け出す(脱藩)ためには何が必要か。 私見

3、記憶と体験によって刻印された日本情緒を愛しつつ、自らを生み育ててくれた、
日本文化を前向きに自己否定する勇気を持つことだ。個を確立し、脱藩を志す人にと
って、避けて通れないトンネルであって、これは被虐ではない。現実から目をそらし、
虚構にすがることが本当の被虐であろう。なぜなら、自己否定の連続は固定観念の脱
却を意味し、新たなコミュニケーションと視野の開拓につながるからだ。何者でもあ
り何者でもない存在として自己が持つ小宇宙と広大な大宇宙との共鳴しあう何かを求
めて生きていく旅人、遊人、修行僧でありたい。このようなプロセスを通じた試行錯
誤をするとき、自己信頼をベースにした自己肯定ができるのでは。


■1、何故、日本は荘園制から抜け出せないのか。 背景

1.日本人は荘園制の存在をすでに認識している人達がいる一方で、全くそうでない
人達もいる。いずれにせよ、抜け出せない理由のひとつに、我々は社会科学的思考を
毛嫌いし苦手とするため、自分達が社会を作っているという認識が低く、まるで、自
然の有機体の一部であるかのような錯覚を持つと共に、「水戸黄門」のドラマのよう
に予定調和する可動性の低い静的な秩序体系が日本型コミュニケーションの限界を象
徴する。(望む望まないに関わらず)

 情報をフィードバックすることによって、生じるシナジーを体系化しながら自らに
現実を合わせるのではなく、現実に自らを合わせ多くの仮説や選択肢の設定を行い危
機管理や新たなシステムを構築する動的な秩序のあり方から目線をそらしている。
 それゆえ国際コミュニケ−ションの土俵で対等に向かい合うのが困難(セマンティ
クス?を無視)になり情報(ソフト)を主体とした産業社会の建設((注1)MTKダイ
ヤグラムのK型)にシフトできずにもっぱらコンピュータを環境設定するだけのハード
ウェア主体のIT革命を突き進んでいるかのようだ。

 それに対し、階層を越えて情報を提供しあうはず?だったインターネットも既成の
構造改革をする以前に、その構造こそが、インターネットの普及率を遅らせたばかり
でなく、世界で最も巨大な国民情報管理システムに現在取り組んでいるとのこと。

 例えば、個人情報保護法など、自由な討論の規制につながる問題には注意が必要だ。
今後の成り行きを見守っていきたい。


■2、何故、荘園制が発生し、今日の日本に未だに残っているのか。 背景

2.地球儀を見ても分かるように、日本の東側は太平洋が広がっており、どう見ても
人間の移動は大陸や南方の島づたいをたどって渡来し、おそらく、いろんな過去を持
った人々の最終駅は様々な意味においてまさしく世界の極東であったのだろう。

  日本社会における荘園制を考える場合、古代からハイテク化した現代に至るまで、
日本型精神共同性とされる想像体に脈々と受け継がれているアニミズム的な伝統は、
一体 何を表しているのか、欠落の表出を意味するものなのか、それとも 数ある国
々の中で、人間が複雑な社会を生きるに従い、失われていった、直感的本能性のよう
なものが未だに残存する土壌を持つ社会の一つなのか、いたずらに政治化され利用さ
れないためにも古代史において国民国家の枠にとらわれないユーラシア大陸史及び海
洋史のような視野を持つことが望ましいだろう。

 それは責任の主体を曖昧にして無脊椎動物のよな背骨のない無規範な社会を構成す
る一方、皆で本質をタブーにし自閉的に依存しあう伝統がこの国の根底にある秩序形
成原理のようなものをグローバルな視点から位置づけるためでもある。

 次に現代日本の危機の本質としては、上述したような体質に加えて情報が官によっ
て独占され、利権に結びつくことによって社会が窒息死に近い状態にあると言われる
が、その代表的なものに、情報公開の未徹底がある。

 このような悪しき伝統は遠い古代史もさることながら、より身近な近代史を捉え直
してみる必要がある。幕末から明治維新にかけ、近代国家建設に向けて活躍した先人
達の功績やトラウマが今の日本の政治システムにどんな遺産を残し、また どのよう
な歴史的影響を与えているのか名ばかりの形式的民主主義の克服ためにも我々は歴史
を客観的に評価する十分な時間の経過を得ている以上、真実を追究し明らかにしなけ
ればならない。

 百人いれば百人の歴史事実がある以上、その過去の上に成り立つ現実を生きる我々
にとって歴史を肯定することも否定することも意味はないのだから。…無関心でない
限り…。


■3、抜け出す(脱藩)ためには何が必要か。 背景

3.荘園制がそれぞれの社会の歴史的な淘汰を経てもなを、残存し各国の伝統と結びつ
いた生の不条理性を表象するものであるならば、それは人々の体内に自然に刻印され
てしまっている以上、完全に乗り越えることは不可能かもしれない。常に全体的に捉
えながら、どこの人間社会にも潜む問題として考えることである。

 よって、その本質が文化の特殊性に還元され、タコツボの中で 自ら(個、組織、
国)の癒しと存在意義を求めるようなコミュニケーションからいかに脱却しうるかに
かかっている。

 そのためには、自明のように受けいれられている存在(ハードウェア)が情報体系
においてどのような相互関係の中で、成り立ち、又、どこに枠組みを為す境界線が引
かれてあるのか、脆弱性(国民国家、文化、雇用、社会関係など)となる前提を必要
に応じて懐疑し、かつ、どうやってそれらを変化の中で引き直していくかを考える柔
軟な想像力こそが人間の最大の英知(ソフトウェア)であるといえるだろう。それは
人間の永遠性を求めることにつながるのだから。

 21世紀が希望に満ちた世紀であるためには、我々はユートピアを描く想像力が必
要になる。しかし、ユートピアは脆弱性を考えず、前提を踏まえないで、生の不条理
性(荘園根性)に軍配が上がってしまうと最悪の全体主義に襲われることは20世紀
の歴史から学べる教訓である。

 人類が藤原さんの(注2)ホロコスミックス(私には理解不能)が21世紀の普遍
真理として実行可能なシステムにまで確立するのに、少なくともあと50年は(注3)
アメリカ主導のグローバリゼーションが進むと思われる。環境問題、人口問題、食糧
問題、失業問題を抱えた、地球規模の難題と我々はどう立ち向かっていくのか、西洋
文明の普遍性が試されるだろう。

 なぜなら、科学、テクノロジー、民主主義、市場資本主義などは全て、西洋が生み
出したものである以上、地球の運命はそれらにかかっているといっても過言ではない。

 その意味で、私は文明を肯定する一方、その反対である野蛮とされるものに想像力
を働かせなければいけないと思う。

 それは現代、そして将来の荘園制を指す。

 西洋に未来を略奪されないためにも懐疑される点は大まかに2点ある。

(1)グローバルマーケットにおける荘園制
 アメリカの大企業のスタンダードを軸にしたグローバリゼーションが世界規模で進
む中、市場は決して万人に開かれたものとしてではなく、供給できる消費者のみを求
めるために貧富の格差(多くのアメリカ人もそのシステムから逃れられない)が広が
る構造ができてしまう点。人々は疎外されのを恐れて、価値がものの価格によってす
べて決定されたり、人と物の区別がつかなくなることに、ますます鈍感になるだろう。

(2)西洋の自己同一性が生み出す荘園制
 15世紀以降、ヨーロッパは文明の進歩とコロニアリズムを並行させながら、世界
システムを構築してきた。それは、常に西洋の自己同一性を確立するために非西洋を
対置してきた。自らのアイデンティティを西洋に求める人達によってその精神は未来
進行形になり、白人はまるでそれらを表象する想像された存在になっているともいえ
る。例(日本の化粧品やファッションのコマーシャル、広告)又、逆に東洋的価値や
イスラム原理主義、日本人論などのように、自らの独自性を主張する人達やそのよう
なアイデンティティを押し付けられる人達も対象として西洋を切り離せない。

 9.11テロ事件とその報復は私自身犠牲者に深い悲しみを覚える一方、背景とし
て大英帝国時代の植民地政策や世界大戦後のアメリカの石油利権における国際政治の
矛盾を他者(イスラム一部過激派宗教問題)にすり替えスケープゴートする単純かつ
巧妙なレトリックがまかり通る構造という点。

 社会という政治集合体に生きる我々にとって克服するための可能なオルタ−ナティ
ブは次の二人の意見を引用しよう 
1.テッサ モーリス=鈴木「偽りのアイデンティティへの権利」212頁(越境す
る知(6) 知の植民地:越境する 栗原彬 小森陽一 佐藤学 吉見俊哉 編、東
京大学出版会 2001) 
2.ジャック アタリ「21世紀辞典 柏倉康夫 伴野文夫 萩野弘己 訳、85−
86頁 産業図書 1999)
 

1.…想像力の脱・植民地化のためには、「政体」(polities)のもつ性格への再吟
味もまた必要となろう。自らの未来を決定しうる、知の共同体と政治行動の再吟味で
ある。それは、すでに不信任をうけた人種ヒエラルキーの概念という構造的かつ知的
遺産からネーションを解き放つことだ。そして、多様性を有する成員が価値を認めら
れ、様々な技能、経験、記憶が承認される「政体」としてネーションを再定義するこ
とである。生き様に関わるアイデンティティの局面を選ぶ自由を個が獲得することに
繋がるのだから。個が本来持っている多重多層な帰属のなかから、どの局面でのアイ
デンティティを個が選択するかの自由を容認されてこそ、「真実」のアイデンティテ
ィ探しとは、強迫観念化することも、また、苦痛をともなうものでもなくなるはずだ
…。

2.…市場と同じく領土によって制限されない民主主義、時間的にも空間的にも国境
のない民主主義を構想する必要がある。 

 空間:その地域に居住する、あるいは居住しようとする人は誰でも利害のある事柄
の決定に当たって、自分の考えを表明することができる、介入する義務が民主主義に
必要なものの一部となる。

 時間:世襲財産を分け合い、環境に与える損害を回避するために、過去の世代とこ
れから影響を受ける未来の世代が、比喩的であるが投票権を持つことが認められるべ
きである。実際の投票はこれらを勘案して今のひとが行うが、要は政治に不可逆の観
念をもう一度導入すべきだということである。これは国境を越えた、つまり地球規模
の民主主義の確立が行われる前に、先ずは国民を再結集して、広い空間の上に民主主
義を構築することを通じて実現される。この意味でEUの建設は中心的な企みであり、
多くの国民の主権を進んでひとつにする最初のものである。もしそれが単一の自由市
場に留まらず、民主的な連邦制度の構築にまで進めば、将来の民主主義の最初の実験
となるだろう。−そして恐らく民主主義を市場の横暴より上位に立たせる最後の機会
でもあるのだ…。

 2人のビジョンに対する私の感想としてキーワードになるのは時間の概念だと思う。
権力から完全に自由なユートピア社会が存在しえない以上、社会を存続させるために
は脆弱性と境界が必要になる。権力によって我々の自由を保障する空間を構築しなけ
ればならない。時代遅れの形式的国民国家から現代、未来にあった21世紀型の国民
国家へのシフトは変化を情報体系の中でどう位置付けるかという時間の概念なくして
は有り得ないだろう。・・日本国憲法の願いが込められたような2人の意見に人類の
世界脱藩へのメッセージが伝わってくる。


■ おわりに

 原稿を書き終え、なぜか今、海をイメージしてしまいます。小学生だったころ、国
語の時間に各自が思い思いに白い画用紙に描いた海、 大人たちは海は人の心を表す
と言っていた記憶があります。その深さはどこからやってくるのかも分からない心の
潜在意識を指すのなら、水平線の見える広さは何か、海は人々を隔てるためにあるの
ではなく、繋げるためにあると言えるのでしょうか。文明社会に生きる我々は人間(
陸地)を中心に考え、地球の大半が海だということ忘れています。今こそ、その隔た
り(荘園の柵)を超え、繋がり(脱藩ネットワーク)を目指して行動する時代がやっ
て来ました。生命を創造し育んだ海の大きさは人間の可能性の大きさを表現するとい
うのは大げさでありましょうか。


 以上


<参照>
(注1)MTKダイヤグラム・・HP藤原肇 日本脱藩のすすめ 図表3 MTKダイヤ
グラム

(注2)ホロコスミックス・・同上 図表1宇宙システムと多次元構造(ホロコスミ
ックス)

(注3)アメリカ主導のグローバリゼーション・・金子純一「パックス・アメリカー
ナ・グローバル市場資本主義文明の時代に生きる」第71−73号 2001 同上
 メールマガジン日本脱藩のすすめ

テッサ モーリス 鈴木「偽りのアイデンティティへの権利」212頁 越境する知
(6) 知の植民地:越境する
      栗原彬 小森陽一 佐藤学 吉見俊哉−編 2001 東京大学出版会

ジャック アタリ 「21世紀辞典」 柏原康夫 伴野文夫 萩野弘己 訳 199
9 産業図書 酒井直樹 「死産される日本語・日本人 「日本」の歴史ー地政的配
置」 新曜社 1997 



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執筆人  八尋昇
編集人  亀山信夫
連絡先  dappan@rb3.so-net.ne.jp
URL  http://www08.u-page.so-net.ne.jp/rb3/dappan/
読者数  1173名
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