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                日本脱藩のすすめ  第75号
                
                 ジャパノロジスト

                                                               2002/03/05
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 3月31日(日)に、在米の藤原肇博士をお迎えし、第8回脱藩道場総会を東京都
内で開催致します。それに先立ち、メーリングリスト【藤原肇】(藤原ML)メンバ
ーの一人である金子純一さんから貴重な投稿がありましたので以下に転載致します。

 なお、脱藩道場総会に参加を希望される方は、以下のアドレス宛てに氏名・住所・
電話番号・参加動機を記入の上、送信してください。折り返し会場の案内メールをお
送り致します。

 最後に、総会当日に使用するテキストをホームページ【日本脱藩のすすめ】にアッ
プしましたので、ご利用ください。
http://www08.u-page.so-net.ne.jp/rb3/dappan/fujiwara/text.htm



■■■ ジャパノロジスト
■■■ 
■■■ 金子純一

 次回の脱藩道場総会のテキストである藤原さんによる一連の貴重な新聞投書は、私
には、ジャパノロジーの現状に対する正面からの叱咤激励であり、また、グルの一人
であるチャルマーズ・ジョンソンの返答を引き出して引導を渡したように見える。

総会を前に、藤原ML上で、その新聞投書の内容討議に入る前に、ジャパノロジーを
廻る状況の概観を共有する意味で、古森義久氏の「透視される日本−アメリカ新世代
のジャパノロジー」(古森義久著 文芸春秋社1999年)を皆さんにご紹介したい。

 古森義久氏の「透視される日本」は、著者が米国の若手ジャパノロジストにインタ
ビューしその紹介と解説を中心とした本である。 そこには、過去、地域研究者が、
一地域の政治・経済・社会・文化・歴史の専門家として担当地域の報告や特殊性の解
説をしていれば良かった時代もあったが、現在は、そういう時代はとうに過ぎさり、
ジャパノロジーに関しても地域比較研究を元にした社会科学的な理論化・学説化が重
視されるようになってきていると状況が報告されている。

 古森氏によると、ジャパノロジストの中には、日本独自の文化とか伝統、国民心理
によって日本社会の「異質性」を説明するアプローチを取る者の他に、社会現象は須
らく人間の「合理的選択」の帰結であるという立場に立って、日本の社会現象は制度
・条件の違いによってもたらされたものであり、システムの一部を正確に分析すれば
全体の予測が可能になるというアプローチを取る者も増えつつあるとのことだ。

 前者の代表は「日本異質論者」「リビジョニスト」として広く知られる元カリフォ
ルニア大学バークレー校教授(’62〜’88迄26年間政治学教授)のチャルマーズ・
ジョンソンであり、後者の代表格はエール大学のフランシス・ローゼンブルス(「合
理的選択論」)だそうだが、彼らがここ数年、日本政治の研究方法を巡って猛烈な衝
突をしている様子も同書の中で報告されている。
 
 また、古森義久氏は著書の中で、アメリカの先輩ジャパノロジスト達が、アメリカ
の若手研究者に関して、日本の文学、文化、社会、歴史といった地域研究の基礎とな
る分野に関心を持ち、その研究を当面の主対象にしようとする者が減っていると危惧
している様子も捉えている。

 同書によれば、グローバリゼーションの進展とあいまった米国アカデミズムの質的
変化により、大学は、単なる地域研究ではなく比較論的アプローチによる理論化・学
説化志向となっており、また「合理的選択論」に則った研究を評価する傾向を顕著に
しているとのことである。これにより、単なる地域研究のジャパノロジーは政治学で
も経済学でも排除され、大学からテニア(終身在職権)を与えられない情況であると
のことだ。

 古森氏は、現代の若手ジャパノロジストが、日本研究の基礎となる分野に大きく力
を注がない姿勢を取るようになった背景には、歴史や文化・風習などをさほど重要視
しない合理的選択論アプローチがアメリカ政治学界全体で主流の手法として定着した
ことがあると捉えている。また、これに加えて、日本の経済的凋落と中国の台頭など
によりジャパンパッシングの傾向が強まっていることも、若手ジャパノロジストの姿
勢に大きく影響していると捉えている。

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上記のジャパノロジストをめぐる状況の概観の上に、藤原さん他の新聞投書のやりと
りの内容を重ねつつ、下記のようなことを考えましたので、今後の討論の叩き台とな
ればと思い下記します。

1) グローバルな自由経済の守護者と自らを認める米国は、日夜、世界中で外交・通
商政策を展開し、政治・経済活動を繰り広げているが、これを支える上で、多くの社
会科学関係の地域研究者をアカデミズムの中に抱えていること、及び世界中に広がる
企業や米国商工会議所や国務省・商務省・国防総省等との間の相互連携の仕組みを持
ち、その運営にあたる人材を育てていることが大きなアドバンテージを生んでいる。

2)アメリカと日本の将来の安定的な関係を考えるとき、双方ともに、相手の側の言
語や歴史・文化・社会に深い理解を持ち、指導階層や知識階層と長期的な信頼関係を
築ける第一級の人材を育成することがたいへん重要である。

3)日本は戦前、大本営参謀本部や満鉄調査部は持った経験はあるが、戦後、アメカ
研究にどれだけきちんと投資し、日本側のアメリカ研究体制を整え、人材を育成して
きたといえるのか。

4 日本の経験で言えば、ベルリンの大島大佐の轍を再び踏まない為には、100年の計
を考えることのできる真に良識ある人材の育成とそのインテリジェンス向上に真剣に
心を砕き、時間をかけねばならないと言える。

しかし、現在、亡国の淵をさまよい、指導者層に人材払底の観をきたしている日本が、
そういう若手の人材を多数輩出するために、今何をなすべきなのか。

5)米国のジャパノロジストに優秀な人材を得て、彼らに日本への深い理解と日米平
和へのコミットメントを抱いてもらう為に、日本は何をしてきたか。将来を睨んで、
今後どうすべきか。

6)政財界とスイング・ドアで行き来するジャパノロジストや、ジャパンパッシング
・ジャパンナッシングの影響下で、日米の掛け橋となるジャパノロジストに上質の人
材を、いかにして確保すべきか。

 現状は、優秀で行動力あるアメリカの駆け出し政治・経済学研究者であれば、自分
が30代・40代の働きざかりの時期に重要なテーマとなる可能性の高い分野で、人
があまり手がけていなくて、自分自身も興味が持てる分野を選ぶ可能性がある。

 そして、日本での一定の滞在経験を経たうえで、米国に戻って、比較研究アプロー
チや合理的選択論で理論化を模索した論文を書いて大学からテニアを確保しつつ、そ
のテーマの知識をかわれる形で、政府や実業界とのスイング・ドアを行き来して活躍
することも選択肢に入ってこよう。

 しかし、バブル崩壊とその後の経済の長期停滞、また冷戦の終結というフレームワ
ークの大変化により、世間の耳目は日本に集まらず、ジャパンパッシングとかジャパ
ンナッシングといわれる風潮が出てきたうえ、加えて、中国の経済的台頭と将来性に
よりチャイナブームが発生しており、今や日本が、米国の目端の利いた政治経済学者
の卵達の関心を強く惹きつける魅力を持たなくなってきていることに充分注意する必
要がある。

 古森氏によれば、過去ジャパノロジストになる者の多くに、親の日本駐在に伴って、
青少年時代に在日経験があったり、日系米国人としてのバックグラウンドなどから日
本研究を志すきっかけを得たものが多かったが、現在ではそういうアドバンテージを
持っていても、研究者としての将来性を考えて、あえて日本以外を研究対象としたり、
日本研究のウエィトを下げる者が増えているという。


7)さらにアメリカでの日本研究の長期的な展望を考えるとき、単なる地域研究や、
比較研究のあげくの日本異質論の羅列ではなく、社会科学として理論化を志向すべき
ことには賛成。しかし、米国で「合理的選択論」の台頭が、歴史や文化・風習などを
さほど重要視しない風潮を実際に引き起こしているとしたら、研究者が自らの視点や
文化のバイアスを意識・修正し、より深く対象を理解する為には、歴史や文化・風習
等の見直しが必要と考える。

8)一方、研究者がスイングドア方式で政財界と学界を行き来することは、学者の常
識・経験を広げる良い機会であり、日本でももっと取り入れて行くべきである。

 とくに大切なのは、そういう人材が学界に戻ったときに、外での経験を生かしてさ
らなる学問的評価を出し、後進の指導にあたれるよう、大学及び政財界が高い視点で
積極的に援助することではないか。

 このとき問われるのが、大学及び政財界の理事クラスの見識である。目先の政治経
済の毀誉褒貶に煩わされ功利主義的な要素にばかり捉われることなく、充分に歴史と
学問的価値を見据えた高い視点からの研究者への支援ができるかどうかが、将来のジ
ャパノロジーの質を左右するポイントとなる。

9)大学や経済界が、政財界のグローバル経済運営の一貫として、実際的に役立つジ
ャパノロジーばかりを重視したり、また、研究者を単なるジャパンハンドラーに仕立
て上げることに偏重した人材育成に終始すれば、人間行動を解き明かす社会科学とし
てのアメリカのジャパノロジーは浅いものになってしまうであろう。

10)また、学界にグルやボスが君臨して、自分が脚光を浴びた時代の手法とレベル
に留まって、社会科学の発展を阻害している状況を放置するのであれば、将来に禍根
を残すことになろう。

11)そして、9)10)のような状況を放置すれば、相手の側の言語や歴史・文化
・社会に深い理解を持ち、日本の指導階層や知識階層と長期的な信頼関係を築いて、
日米の双方の平和と繁栄を考え、日米の掛け橋となることにコミットした第一級のジ
ャパノロジストを得ることは難しくなってしまうであろう。

 第一級のジャパノロジストを日米双方の掛け橋とすることができれば、それは日本
に現在の混乱から立ち直る契機を与えることになろう。  

 あくまで推測だが、藤原さんの投書の背景にはおそらくこういう考えがあって、日
米関係の将来を考えて、あえてC.ジョンソンの返答を引き出すことで、間接的に質
に問題があるジャパノロジスト集団に引導を渡すとともに、我々に日本の進路にとっ
て重要なポイントを指し示してくれたのではないだろうか。
    
                                      
  −以上ー



___________________________________________________________________
執筆人  金子純一
編集人  亀山信夫
連絡先  dappan@rb3.so-net.ne.jp
URL  http://www08.u-page.so-net.ne.jp/rb3/dappan/
読者数  1179名
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