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日本脱藩のすすめ 第76号
人類の過去・現在・未来を探る[1]
2002/06/04
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■■■ 化石から見た人類の過去
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■■■ 亀山信夫
「われわれは何処から来て、何処へ行くのか」という有史以来の人類の問いかけは
今日に至っても依然として謎に包まれています。ところが、最近のDNA分析科学の
進歩によって、「何処から来たのか」については、今までは謎であったベールが解明
されつつあります。
1996年1月、NHKが『生命40億年遥かな旅』という番組をシリーズでTV放送
したことがあり、ご記憶の方も多いでしょう。そのシリーズの第8回は、「人が猿か
らわかれた日」というテーマの番組であり、イーヴ・コパンスの「イーストサイド物
語」説を下敷きにものでした。参考までに、番組の内容は以下のようなものでした。
…第三紀(約6500万年前〜約170万年前)は、世界規模の地殻変動が激し
かった時代だった。アルプス、ヒマラヤなどの山脈が形成されたのも第
三紀であった。アフリカもその例外ではなく、1000万年前から激しい地
殻変動が続き、 ついには500万年前にアフリカ大陸の東側で大地が1000
メートル以上も押し上げられた結果、アフリカを南北に貫く山脈が形成
された。アフリカは広大な森林におおわれていていたが、山脈が出現し
たことにより、山脈の西側にいたチンパンジーと東側にいたチンパンジ
ーは、その後の運命を分かつに至るのである。アフリカの東側は、今ま
でにあった森林が消えてサバンナ(草原)と化した。そのため、東側に
いたチンパンジーは、サバンナで生活をしていく他はなかったのである。
やがて、2本足で歩くようになった。…
上記のNHK放送の粗筋は、チンパンジーと人類(猿人)とが枝分かれした当時を
生々しく物語ったものですが、今日においては、コパンスの「イーストサイド物語」
説は色あせたものになっています。その後発掘された化石から、当時のチンパンジー
から枝分かれした“人類”も、依然として森林生活を送っていたことが明らかになっ
たからです。
しかし、NHKが直立二足歩行を取り上げたのは慧眼と云うべきです。何故なら、
直立二足歩行こそ猿を含めた他の動物と人間とを分かつものであり、人間の人間たる
所以が直立二足歩行にあるからです。2本足で歩く最古の猿人の化石も発見されてい
ます。400万年前にアフリカ大陸にいたアファール猿人です。
人類とチンパンジーが共通の祖先から分かれ、2本の足で歩くアファール猿人とい
う初めての人類が誕生以降、 さらに250万年前に最初のヒト属の出現、さらには20万
年前のホモサピエンスの誕生と云う大転換期を経て、今日の私たちにつながったとい
うのが現在の定説になっています。
次に、DNA分析科学を簡単に取り上げておきたいと思います。
「イブ仮説」というのをご存知でしょうか。この研究は、1987年に発表された「ミ
トコンドリア・イブ仮説」のことで、現代女性の祖先は約15万〜29万年前の一人
のアフリカの女性に辿り着いつくというものでした。発表当時は一大センセーショナ
ルを巻き起こしたものの、コンピュータを使ったシミュレーションの方法に間違いが
あったことが後に判明した研究でした。ただし、ミトコンドリアを調べることにより
私たちの共通の祖先が特定できるという発想そのものは、基本的には間違ったもので
はなかったのです。DNA分析科学という手法が、今日に至っても人類学において威
力を発揮しているのが何よりの証拠です。
DNA分析によって人類とチンパンジーが共通の祖先から枝分かれした時期も特定
できます。人類とチンパンジーのDNAによる差は、わずか1.4%です。 換言すれば
残りの98.6%のDNAは、人類・チンパンジー共に共通しているということになりま
す。そして、500〜700万年前に人類とチンパンジーは共通の祖先から枝分かれしたで
あろうと推測されていますが、2001年7月12日発行の『ネイチャー』は、古型ラミ
ダス猿人(アルディピテクス・ラミダス・カダバ)が発見され、従来考えられていた
人類の起源500万年前説から、 一挙に100万年遡って600万年前が人類の起源になった
と報告しています。
600万年前に出現し、2本足で歩くようになった人類は、その後、道具を発明し、
火を使い、ことばを操るようになり、それと共に脳も大きくなっていく…と私たちは
考えがちですが、ここで人類学ジャーナリストの河合信和さんの以下の言葉を噛み締
める必要がありそうです。
…(イーヴ・コパンスの「イーストサイド物語」説などに対して)こうし
た諸説は、あまりにも合目目的すぎる。有りていに云えば、話がうますぎ
るのだ。そもそも進化の根源は、遺伝子の進化だ。遺伝子進化は中立的で
あって、種の変化にとって有利でも不利でもない。そしてその遺伝子進化
が形態に表現されて、初めて自然淘汰のふるいにかけられる。だから、直
立二足歩行も、決して合目目的達成されたのではない。ひょっとしたら、
何一つ合理的理由などなかったかもしれないのだ。……」
…直立二足歩行の開剖学的構造も、たぶん直立二足歩行のために出来たの
ではない、と思う。形態を表現させる重要な遺伝子に、ある時、突然異変
が起こり、二足歩行とは無関係な構造がアフリカの化石類人猿の一集団に
偶然に出来上がり、それが自然淘汰上ほんのわずか有利だったので、たま
たま二足歩行に転用されたのだろう。そう考えないと、こんなユニークな
歩き方が進歩したはずがない。……」
『ネアンデルタール人と現代人』(河合信和著 文春文庫)
最後に、旧人を代表してネアンデルタール人、新人を代表してクロマニヨン人の脳
を比較してみましょう。
ネアンデルタール人の脳と比較すると、クロマニヨンの脳の方が全体に丸く、特に
脳の一番前に相当する部分が分厚く盛り上がっています。その盛り上がった箇所を前
頭葉と言い、人類の脳の中では最も新しい部分です。そして、まさにネアンデルター
ル人とクロマニヨン人との違いが、この前頭葉の2ミリの帯の分量の違いという形に
なって現われています。
前頭葉が発達していなかったネアンデルタールは、却って古い脳と新しい脳のバラ
ンスがほどよくとれていたという説があります。それは、かつてネアンデルタール人
が住んでいたというシャニダール洞窟がなによりの証拠だそうです。その洞窟で発見
されたネアンデルタール人は9体ですが、そのうちの1体は右腕を失い、左目は盲目
であったことが判明しています。このような身体になると狩りには不向きのはずです
が、そのネアンデルタール人は余生を全うしたようであり、それも仲間に養われなが
ら余生を送っていたと推測されます。ここに、ネアンデルタール人の弱者をいわたる
という博愛の心を見出しますが、これはヒト以外の動物にも見られることであり、珍
しくもなんともないのではないでしょうか。また、ネアンデルタール人は“死”とい
うものを理解していて、その証拠として彼らの墓の周りから花粉が発見されているか
らと主張する人もいます。しかし、果たして本当にそうだったのでしょうか?
このあたりについて、前出の河合信和さんは次のように述べています。
…現代に暮らす私たちが花を愛し、いつも花に包まれていたい、と願うの
はわかる。花は見た目に美しいし、香りも素敵だ。しかしこの感覚を、ネ
アンデルタール人にそのまま投影してしまっていいのだろうか? 彼らが
初歩的な埋葬らしいことをしていたのは、事実だ。ただし死んだ仲間を埋
葬に近い行為で処置するのは、ゾウも行う。それをもって、ゾウも死者を
悼んで埋葬している、と考えてよいわけではない。動物が行っていること
を単純に擬人化してはならないというのは、動物行動学のイロハである。
死を意識し、死者を「あの世」、「黄泉の国」に送るという観念が、ネア
ンデルタール人にはたしてあったのかどうか。死の観念は、象徴化と密接
に関わるだけに、疑問だと思う。まして、花で葬送した、と割り切ってし
まってよいのかとなると、大いに疑問だ…
河合さんも述べている通り、編集人も今の人間のモノサシでネアンデルタール人の
心を単純に推し量って良いものだろうかと思わざるを得ません。
一方、クロマニヨン人の方は前頭葉がかなり発達していました。彼らの発達した前
頭葉には、どのような意味があったのでしょうか。
ここで推測できるのは、前頭葉というのは文明を起こすだけのパワーを秘めていた
と同時に、大規模かつ残酷な戦争も引き起こすという、正邪が同居しているのではな
いかということです。正の面では、メソポタミア文明をはじめとする古代四大文明を
興し、ついには人類は月に足跡を標すまでに至るという具合に、科学文明を飛躍的に
発展させました。邪の面では、過去の二度にわたる世界大戦をはじめとし、現在も絶
えることのない局地戦争が取り上げられるでしょう。
文明と戦争という正邪、いずれも前頭葉がもたらしたものだったようです。
《参考文献》
★『The Origin of Species』(Charles Darwin, Penguin Books)
★『ネアンデルタールと現代人』(河合信和著 文春文庫)
★『生命40億年遥かな旅』 NHK・1996年1月放送
《参考ホームページ》
◆[人類博物館] http://www.saitama-kenpaku.com/jinrui/
※『やさしい用語集』は、人類学の用語集をチェックする際に重宝
※人類学ジャーナリスト河合信和氏の最新レポート『河合信和のコラム』有り
◆[進化研究と社会] http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/
※人類学に関する最新の英文レポートをチェックするのに重宝
※ 後書き
今回の「人類の過去・現在・未来を探る」を皮切りに、今までの執筆内容とは若干
異なった角度で、時折発行したいと思います。こうした内容を執筆していくに至った
きっかけは、ダニエル・ベルの『二十世紀文化の散歩道』(特に最終章の「宗教への
回帰」と藤原肇博士の『宇宙は波動と超意識』でした。
…自然科学のバックグランドを持ち、地質学のプロとして四半世紀も
生きてきた私としては、この常識の壁を乗り越えて虚次元を導入し、
暗在系と顕在系に橋を架ける必要性を感じていたものの、具体的にど
うしたらよいかは良く分かりませんでした。ルネッサンスの時代の先
覚者達は生命を賭けて地動説のパラダイムを打ち立てると、宇宙と宗
教のドグマから解放しましたが、何百年かの時間の流れの中で、今度
は自然科学が自らを常識の枠の中に追いやり、人々の意識を狭い時代
精神の鋳型に嵌め込んでいるのです。
この桎梏から抜け出すためには、私は自然科学から自然学に転じる必
要性を感じ、さらには「温故知新」で古代の叡智に学ぶ所に遡って、
出直すのがよいと思い当たりました。
『宇宙は波動と超意識』P296
無論、本メールマガジンの本来の基本内容である日本および世界の政治・経済につ
いても、亀山をはじめ、脱藩道場のメンバーで今後も執筆させていただく予定です。
以上
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編集人 亀山信夫
連絡先 dappan@anet.ne.jp
URL http://www.ne.jp/asahi/dappan/net/
読者数 1147名
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