脱藩型ニッポン人の時代

    1991年05月07日初版発行 本体価格1262円+税

    TBSブリタニカ

    絶版

    『地球発想の新時代』(東明社)として蘇りました。


    まえがき

     二十一世紀の始まりを目の前にひかえて、激動の中で世界が大きく変化しており、今後の十年間が波乱に満ちたものであることは、前半期が東京株式市場の暴落に終始したり、後半は湾岸危機に振リ回された一九九〇年を見ても、その輪郭がおよそ見当がつきます。
     われわれの行く手に嵐が待ち構えでいることは、一九九一年の始まりと共に戦瑞を開いた、湾岸戦争の最初の十日間の経過を見ただけで、だれもが本能的に感じるのではないでしょうか。経済が不況から恐慌に移行しかけている時に、世界の指導者たちは経済問題を棚上げにして、戦争に全力を上げてのめり込んでしまい、B52による史上最大のジュウタン爆撃で、文明の発祥地であるバグダッドを灰燼に帰そうとしたり、油田の破壊で前代末聞の環境汚染を発生させで、文明や自然を冒涜しています。
     地球儀的な広がりで見ると、このように現在は混乱と狂気に包まれており、世界的な規模で古い秩序が崩壊しかけているので、これは大変な時代の目撃者になったと、全身の神経が痙攣しそうな感じがします。
     目の前で実現したクウェートの凌辱の悲劇は、「奢れるもの久しからず」という言葉を蘇らせ、思わず背筋に冷汗をかく人も多いはずです。
     今度は日本列島の上に視点を移して見ると、財テクに夢中になり成金趣味に耽溺し、大国意識に支配されて騎り高ぶっていた日本の姿は、ついこの間までのクウェートと二重写しになり、強い不安の気分に包まれますが、現在の日本の政治的混迷は中東並みです。そして、歴史の鑑に教訓を捜して見ると、まさに幕末前夜だということが可能だし、本書の冒頭はこのテーマで始まっていますが、幕未という言葉こそ現代におけるキイワードです。
     本書は四十代の人生を総括しておくために、多くの人の協力を得て対話が企画され三年を費やして一九八九年末にまとまりました。そして、編集作業を丹念に続けている間に、激動の九〇年代が大荒れ状態で始まり、湾岸危機が湾岸戦争に発展したことで、私が強く懸念していたことの幾つかが、未来形から現在形や現在完了形になって、読みの甘さを反省する必要を感じるほど、歴史はダイナミックで急激に動いています。
     現に、この本が読者の目に触れる時には、湾岸戦事の惨状は現実のものになって、これまで均衡を保っていると見えていたのに、現実は大きく揺らぎ始めているはずです。こういった局面に遭遇した時には、人はより根源的なものに目を向けるものであり、その点で、本書の出版は時宣を得たと言えるかも知れません。現在の時点と本書の内容の間を埋めるものとしては、後発なのに先に緊急出版されている『湾岸危機・世界はどう動くか』があり、それで補うことで日本の置かれた状態が、明白に浮き彫りになることでしょう。
     本書は系続として『日本脱藩のすすめ』の続編ですが、小室直樹博士との対談集『脱ニッポン型思考のすすめ』と共に、脱藩トリロジー(三部作)を構成しています。新しい幕末を迎えた日本の運命にとり、なんらかの提言を含むことを願いつつ、若い世代への挨拶と期待を託して、太平洋の対岸から本書を届けたいと思います。


    目次

    まえがき

    第一章 アメリカでの事業体険と日本の幕末化
     新しい時代精神の誕生
     新聞逆さ読みの十五年間
     太平洋横断の担ぎ屋体験
     組織と文明の固体発生
     土地本位性による超インフレ政治
     文明のサイクルと世紀末現象
     批判精神の脱落した日本
     石油とウイスキーの縁結び
     最後の企業家との短い出会い
     カンザスのボーリング事業
     アメリカ的な「吸収合併」の構図

    第二章 流浪の一匹狼どパシフィカルの時代
     テキサスのアレグロ・モルト
     山師の仲間の大統領
     カウボーイブーツ姿の億万長者たち
     さらにいくつかの人生の別離
     生きざまとしての美意識
     日本の芸術における非芸術的な傾向
     ワシントン外交の当て馬役とソニー騒動
     ラスベガスの江戸前鮨の効用
     石油不況の大嵐という試練
     時務を知り天の時を識る
     先物体験から得た教訓
     人材のネットワーク
     パシフィカルの時代
     太平洋多言語圏構想

    第三章 国土改造計画は住民のために
     情報におけるインテリジェンス
     行間に書かれているメッセージ
     在外公館の不経済
     無視されている海外の日本人
     日本人の天動説と視野狭窄症
     日本の忠臣蔵外交と利権政治
     お由良騒動の時代感覚
     政治改革への日本人の選択

    第四章 東西融合文明の発生学
     平安文化へのマザー・コンプレックス
     ノブレス・オブリジュを求めて
     帰属する自己の原点
     日米関係の将来
     本当の開国への自覚
     全体との調和を考える責任
     南北問題の解決を求めて
     第二次ミッドウェー決戦の試練
     一匹狼への熱い声援
     書評としての文明批判
     厳しい批判と一流の世界
     脱藩世代の世界的ネットワーク

    あとがき


    あとがき

     本書の成立するまでには多くの人々の協力があり、そうした方々が準備した質問書やインタビューのおかげで、話題がより充実したものになりました。「言うべきにあらざることは言うなかれ。故にあらざることは語るなかれ」を美徳にするアジアの伝統からすると、余計なことを語りすぎて、はしたないという印象を生んだかもしれません。しかし、開けっぴろげの江戸っ子気質もあって、舌が滑リすぎたと感じたときにも、「他山の石」として使ってもらえると思い、あえて石選びをしないことにして、素材をそのまま出すようにしておきました。
     ほとんどの人が読者や友人であり、『日本脱藩のすすめ』に続くものを出すようにと言って、熱心にほめてくれただけでなく、対話の内容のリードや意表を実く質問の提出を通して、この本の中の中身を多彩にする上で手伝ってくれました。その貢献を未知の読者とともに分かち合う意味で、その名前をABC順に記録して、感謝の気待ちを表わしたいと思います。
    天野三郎 江口敏 藤井尚治 福田潤 マイク広川 本間美津子 池田幸光 亀山信夫 小島真吉郎 黒川浩二 真野義人 松本道弘 中井正堆 新田和夫 小畑まゆみ 小川勝正 佐藤研太 清水隆一 鈴木利貞 田中真理子 ウォルター渡辺 山田恭稔 横山秀男 吉田寅次郎
    (氏名は、メーリングリスト【藤原 肇】の参加者です。)
     また、私は過去十年間に及ぶ期間を通し、それまで働いていた会社を辞めたり、地理的に日本を脱出したりして、さまざまな形で人生航路を切り替えた人に、何十人も著者として会う機会がありました。
     ほとんどの人が同しようなパターンで、最初の数年間を苦難とともに過ごしたようですが、結果としては、自らの決断で行動を起こして、新しい人生に挑戦して何かをつかんだことを、満足の気持ちで振り返っているようでした。また、その後の日本の社会慣行が大幅に変わり、転職や独立も以前よリ簡単になったし、人によっては、突破口を外資系の企業に求めて、次のステップ作りをしている場合もあります。
     それにしても、脱藩の意味は組織や地理的なものだげでなく、精神の枠組みを乗り越えることであリ、また、自己変革を遂げることでもあることを、完全に理解されたことでしょう。そして、そのオメガ・ポイントは宇宙意識との一体化にはかなりません。
     最後になりましたが、本書と読者の皆さんを結びつけてくださったTBSブリタニカの堀出一郎前社長に上梓の実現のお礼の言葉を述べたいと思います。また、忙しい日程だったにもかかわらず、一年近くの歳月を費やして、勇み足気味の私の発言を調教し、野趣よりも温和で滑らかな装いを施す努力を傾注した西脇礼門さんの苦労に対して、感謝の気持ちを表明する次第です。こうして、私の四十代を終わった時点での、脱藩時代へのマニフェストが実現でき、あとは新しい人生の実践の期待を待ち望むだけです。 よりよい未来と結びつくために、健康で明るい人生航路を突き進み、あとわずかに追っている二十一世紀の始まりの瞬間の、次の再会の日を楽しみにすることにしましょう。
     脱藩型ニッポン人の未来に祝福の思いを込めて、アメリカの砂漠の澄んだ空気とともに、脱藩新時代の挨拶を送ります。

    一九九一年三月 パームスプリングズにて

    藤原肇


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